株式会社日本政策金融公庫

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13台のメインフレームを全廃し、プライベート・クラウドでシステム共通基盤を統合
Micro FocusのCOBOL製品を採用し、マイグレーションを実施

国民生活金融公庫、農林漁業金融公庫、中小企業金融公庫及び国際協力銀行(2012年分離)の統合により2008年に発足した日本政策金融公庫は、当初、旧来の金融機関の業務を引き継いだ各事業部門が統合前からのシステムを運用していました。合計13台ものメインフレームで稼動しており、それぞれの業務を支え続けてきた重要なシステムでしたが、提供ベンダー固有の技術への依存が避けられず、コストは高止まりしている状態でした。

政府系金融機関として「統合によるシステム面の効果を最大化する」命題を与えられたIT部門は、綿密な調査を行い、2010年10月に「公庫全体最適化計画」を策定。オープンスタンダード・デファクトスタンダードな技術・製品をベースに、プライベート・クラウド上に共通基盤を構築し、すべてのシステムを統合することを決断します。メインフレームで稼働していた1980万ステップに上るCOBOLアプリケーション資産は可能な限り引き継ぎ、Micro Focus COBOLを活用して共通基盤上にマイグレーションされました。

2015年1月、最大10ものプロジェクトが同時進行していた「公庫全体最適化」は成功裡に終了。年間維持コストが大幅に圧縮されるとともに、ベンダーロックインからの脱却、運用性・保守性の向上、事務処理の合理化・効率化も実現しました。そして既に次の「最適化」への取り組みも始まっています。

The Company

事業領域の異なる政府系金融機関の統合によって誕生した政策金融機関

2008年10月に、国民生活金融公庫、農林漁業金融公庫、中小企業金融公庫及び国際協力銀行(2012年分離)の統合により発足した日本政策金融公庫(以下、日本公庫)。日本公庫は、民間の金融機関が行う金融を補完することを旨としつつ、国民生活の向上に寄与することを目的とした100%政府出資の政策金融機関です。国の政策の実施機関としての役割を担っており、東日本大震災からの復興支援などのセーフティネット機能の発揮、創業・新事業や農林水産業など成長戦略分野等への金融支援などに取り組んでいます。

小規模事業者や創業企業への事業資金融資、あるいは個人への教育資金融資などといった小口融資を主体とした旧国民生活金融公庫、農林漁業や食品産業の事業者への融資を担う旧農林漁業金融公庫、地域経済を支える中小企業に向けた融資、信用保険を扱う旧中小企業金融公庫、三者三様の業務を統合後の組織では、国民生活事業本部、農林水産事業本部、中小企業事業本部がそれぞれ継承するかたちで各領域の顧客層に対する金融面での支援を展開するとともに、3事業が一体となった総合力の発揮にも積極的に取り組んでいます。

The Challenge

システム統合をいかに実現するか

「政府系金融機関である日本公庫では統合直後から、それまで各事業が培ってきた顧客層やビジネスノウハウを最大限に生かしながら、いかに統合効果を創出していくかが、経営上の最重要テーマとなっていました」と日本公庫 取締役 IT部門長 山口博澄氏は語ります。

日本公庫では、統合効果を最大化するため、同一地域に複数存在する店舗の統合、事業ごとに存在する経理事務などの間接業務の統合、BPRによる事務の合理化を推進し、より効率的な組織体制の確立を目指しました。

統合効果追求に向けた一連の施策のなかでも、重要なテーマであったのが、3事業が日本公庫発足以前から運用してきたシステムをいかに統合していくかという問題でした。「統合によるシステム面の効果を最大化し、かつ早期に実現する最善策は何か、経営層で議論を重ねました。各事業の業務特性や顧客基盤はそれぞれ異なり、統合前には各事業が自らの特性に応じたシステムを長年にわたって作り上げてきたという経緯があります。それら成り立ちも思想も異なるシステムの統合を目指すというのは、言うまでもなく、非常に困難な取り組みだったわけです」と山口氏は語ります。

山口博澄氏

日本政策金融公庫
取締役 IT部門長
山口博澄

綿密な検討を重ね、公庫全体最適化計画を策定

具体的には、各事業の基幹システムは、3事業合計13台のメインフレームで構築されており、それぞれに異なるベンダーのメインフレームで運用していました。そのほかシステムごとに様々な種類のOSによるサーバーを運用していました。

「特に各事業のメインフレームに関しては、それぞれがベンダー独自の技術を採用していることから、業者間の競争原理が働きにくく、システムの維持コストが高止まりする傾向にありました。また、メインフレームとサーバーが混在し、システム間の連携も複雑化していたため、事業環境の変化に柔軟かつ迅速に対応できないことが課題となっていました」と日本公庫 ITプランニングオフィス IT戦略グループ グループリーダー 佐藤功司氏は語ります。

日本公庫では、2009年1月から「あるべきシステムの将来像」の検討を開始。まず、各事業の現行システムの詳細な調査やアプリケーション資産の棚卸しといったアセスメントを実施する一方、日本公庫の全役員を集めた合宿なども実施して、日本公庫にとってITが果たすべき役割やシステムのあり方といった根本的な部分から改めて検討する取り組みも行ったといいます。また、「あるべきシステムの将来像」の検討にあたっては、採用する技術の検証を重ねました。

そして、2010年10月にシステム統合の基本方針をまとめた「公庫全体最適化計画」を策定します。この計画は、業務特性の異なる各事業のシステムを、文字通り、日本公庫全体として最適化していくという方向性を明示するものでした。

佐藤功司氏

日本政策金融公庫
ITプランニングオフィス
IT戦略グループ
グループリーダー 佐藤功司

The Solution

メインフレームを全廃し、システム共通基盤上へアプリケーション資産を移行

「公庫全体最適化計画」では、システム統合に向けた具体的な施策として、「プライベート・クラウド上にシステム共通基盤を構築し、メインフレームを全廃」、「仮想化技術を採用し、稼働率の低いサーバーを集約」、「システムの設計思想を標準化」、「オープンスタンダード・デファクトスタンダード技術の採用」、「パッケージ製品の積極的採用」により、柔軟性・拡張性のある低コストなシステムの確立を目指しました。さらには「電子決裁やペーパーレス化の推進」による業務の一層の合理化・効率化にも取り組みました。

「こうしたメインフレーム全廃を含む、きわめてチャレンジングな方針を全社として打ち出せたのも、経営トップが率先して、ビジネスを支える重要な資源であるシステムの全体最適化に向けた強い意志を示したからにほかなりません。政府系金融機関として、“ベンダーロックイン”の問題を解消し、ITの維持コストにかかわる適正化を図っていくことは不可欠だったわけです」と山口氏は語ります。

日本公庫では、各事業の業務特性や顧客層の違いが大きく、民間の金融機関合併時のように、統合前のいずれかのシステムに“片寄せ”するといったアプローチではなく、共通で利用するシステム共通基盤を構築し、既存のアプリケーション資産を可能な限り引継ぎいでマイグレーションすることとしました。

異なるメインフレームからのCOBOL資産マイグレーション

各事業の業務システムで運用していた合計13台のメインフレーム上のCOBOL資産は、約1980万ステップありました。

「COBOL資産をJavaなどに書き換えるといった方法も考えられますが、プロジェクトの期間、コストを考えれば、それは決して現実的な選択であるとはいえません。何よりも、業務に即したビジネスロジックを実装し、日々、運用されているプログラムの構造そのものに手を入れることには、大きなリスクが伴います。そこでCOBOL資産は可能な限り活かす形でシステム共通基盤上にマイグレーションするのが最善策とされたのです」と語るのは、日本公庫 システムインテグレーションオフィス アプリケーション構築グループ グループリーダー 近藤真一氏。「最近はオープン系の技術者が多くなってきており、将来的にCOBOL技術者の確保が難しくなることが懸念されていましたが、調査の結果、当面の間は技術者の確保が問題となることはないと評価しました」と続けます。

また、各事業の業務システムのCOBOL資産は、異なるベンダーのCOBOLを採用しており、ベンダー独自の言語仕様や機能拡張の点で少なからぬ差異がありましたので、既存のCOBOL資産のコード解析等のアセスメントを十分に行う必要がありました。

これら多様なCOBOL資産をシステム共通基盤上にマイグレーションする際にポイントとなったのが、オープン環境で使用する開発言語「COBOL製品」の選定でした。COBOL資産の変換率や互換性に問題があると、プログラム修正対応が必要になり、マイグレーション工数が大幅に増加するリスクがあるからです。

近藤真一氏

日本政策金融公庫
システムインテグレーションオフィス
アプリケーション構築グループ
グループリーダー 近藤真一

COBOL製品の選定

「COBOL製品」の比較検討に臨んだ日本公庫が、最終的にシステム共通基盤上のアプリケーションの開発言語として採用したのが「Micro Focus COBOL」でした。これについて近藤氏は次のように語ります。

「公庫全体最適化計画では、どのベンダーでも開発・運用ができるシステム環境を構築することを方針としており、そういう観点で「COBOL製品」の検討を行っているなかで、選択肢にあがってきたのがMicro Focus COBOLでした。そこで実際に、メインフレームで稼働している各社のCOBOL資産変換の検証を実施し、互換性、パフォーマンス、さらにはサポート体制などもあわせて、総合的な評価を実施した結果、Micro Focus COBOLを採用することになったのです」。

Micro Focus COBOLのほか、日本公庫ではシステム共通基盤のOSに「Red Hat Enterprise Linux」、仮想化ソフトには同OSに標準実装される「KVM」、そしてミドルウェアには「Red Hat JBoss Enterprise Application Platform」、Webサーバーには「Apache HTTP Server」といったどのベンダーでも開発・運用ができる製品を採用しています。

システム共通基盤の構成

ピーク時には最大10ものプロジェクトが同時進行

日本公庫では、2011年の初め頃から、要件定義や設計、ハードウェア・ソフトウェアの調達等が完了したプロジェクトから、順次開発をスタート。その中心的な作業となったのは、言うまでもなくメインフレーム上のCOBOL資産のMicro Focus COBOLへのマイグレーションでした。

マイグレーションに関しては、基本的に変換ツールを活用して実施されました。「変換については、Micro Focus COBOLを選定する際の検証で、変換元がいずれのベンダーのCOBOLかによって差異はあるものの、高い変換率であることが確認できました。実際の開発でも概ね97%の変換率となりました。ただし、Micro Focus COBOLへの変換に問題がなかった場合でも、実際にテストで動作させてみるとベンダー独自機能の非互換による問題が生じることがあったというのも事実です。そうしたケースには、既存のメインフレームベンダーなどの協力も得ながらソースの修正による対応を行うなど、問題を1つ1つクリアしていきました」と近藤氏は振り返ります。

今回の日本公庫における全体システム最適化の取り組みにおいては、ピーク時には最大10のプロジェクトが同時併行で進められたといいます。これに対し日本公庫では、個々のサブプロジェクトにおけるプロジェクト管理に加え、プロジェクト全体の横断的な管理を行うPMO(Project Management Office)を設置し、進捗管理や品質管理などにかかわる標準を設けて、それらの管理業務やプロジェクトの運営上で発生した問題への対応、あるいはベンダーとの折衝などの作業をPMOに集約。プロジェクト全体を円滑に進めるための工夫も行いました。

The Result

ITシステム維持コストを大幅削減し“ベンダーロックイン”から脱却

2013年4月の経理システム稼働を皮切りに各事業の業務システムが、順次稼働しました。日本公庫の所期の目標であった13台のメインフレームの全廃が実現され、旧来その上で稼働していた膨大なCOBOL資産を新たなシステム共通基盤上へと移行することができました。

「例えば、オンラインシステムについてシステム共通基盤上の新システムでは、Web3階層のアーキテクチャを標準採用しており、そのなかで、アプリケーションサーバー上には、JavaとCOBOLのプログラムがEJBコンテナ、COBOLコンテナを介してやりとりするかたちとなっています。そうした冗長な構成をとることによるパフォーマンス上の懸念もあったのですが、実際には問題はほとんどなく、良好なレスポンスが得られています」と近藤氏は紹介します。

そのほかにも、取り組み以前には全社で約770台あったサーバーも、仮想化の仕組みを効果的に活用することで約300台に集約され、約6割程度の削減を実現しています。これにより、メインフレームの全廃とあわせて、システムの年間維持コストを大幅に圧縮することができました。

新旧システムの比較

IT部門職員の人材育成とシステムの高度化による顧客サービスの向上

「システム統合の取り組みによって大幅なコスト削減が実現され、またシステム共通基盤をオープンな環境にしたことにより、ベンダー間の競争性が働き、更なるコスト低減が期待できることは、政府系金融機関として大きな成果だといえます。

また、特定ベンダーの技術に依存しないことで、各分野に強みを持つベンダーにシステム開発に参加してもらうことが可能となり、システム開発の選択肢が広がったことも大きいです。マルチベンダーとなることで当然IT部門職員に“目利き”の力が求められることになりますが、研修やOJTを充実させ人材育成にも積極的に取り組んでいます。」と山口氏は語ります。

もっとも、日本公庫におけるシステムの全体最適化に向けた取り組みが、これですべて完了したわけではありません。次なる最適化計画策定に向けた検討が、既に始まっています。「新計画のなかでは、システムのさらなる共通化、標準化によるコストの削減加えて、最先端のIT技術の導入によるシステムの高度化についても積極的に着手していきたいと考えています。そうした実践を通じて、我々が常に目指すところは、政府系金融機関としてのお客様へのサービス向上にほかなりません」と山口氏。「マイクロフォーカスには、アプリケーション開発にかかわる最新技術の紹介なども含め、今後も我々のシステム構築の取り組みを、しっかりと支援していただくことを大いに期待しています」と語ります。

Technical Keyword

メインフレームからLinux環境の共通基盤上へシステム統合
4つの異なるメインフレームCOBOL資産をマイグレーション

ユーザープロフィール

株式会社日本政策金融公庫

本 社

東京都千代田区

発 足

2008年10月1日

資 本 金

3兆8,601億円

準 備 金

1兆7,478億円(2015年6月23日現在)

総融資残高

国民生活事業(旧国民生活金融公庫) 7兆1,261億円
農林水産事業(旧農林漁業金融公庫) 2兆6,429億円
中小企業事業(旧中小企業金融公庫) 6兆1,819億円
危機対応円滑化業務 4兆356億円
特定事業等促進円滑化業務 818億円
(2015年3月31日現在)

職 員 数

7,364名(2015年度予算定員)

目 的

一般の金融機関が行う金融を補完することを旨とし、国民一般、中小企業者及び農林水産業者の資金調達を支援するための金融の機能を担うとともに、内外の金融秩序の混乱又は大規模な災害、テロリズム若しくは感染症等による被害に対処するために必要な金融を行うほか、当該必要な金融が銀行その他の金融機関により迅速かつ円滑に行われることを可能とし、もって国民生活の向上に寄与することを目的として業務を行っています。

ユーザー事例(PDF版)

株式会社日本政策金融公庫 (1.3MB)